心臓・血管の疾患

ペースメーカー植え込みとその後の管理

ペースメーカーというと、脈が遅くなった人に使う道具、というイメージだと思います。 しかしペースメーカーに似たものがあるのを、皆さんご存知でしょうか? 左心室(脳を含む多臓器に血液を拍出する部屋)が電気の流れが悪くなり、上手く血液を拍出できない場合、心不全をおこしてしまうので、心臓再同期療法(Cardiac Resynchronization Therapy:CRT)というペースメーカーを使います。 致死的な不整脈に対しては、植え込み型除細動器(Implantable Cardioverter Defibrillator:ICD)を使います。 致死的な不整脈とは心室頻拍とまさに心臓が止まっている状態の心室細動です。 除細動といって、「ドン」と人の体が揺れるくらいの勢いがあるのですが、心室頻拍の場合は、抗頻拍ペーシング(アンチ・タキカルディア・ペーシング:ATP)という心室頻拍よりも速いペーシング信号を心筋に数秒送ることで、心筋細胞の興奮を逆に止めることもあります。 それでもいきなり心室細動になったり、ATPが2段階目でも効かなかったりすると、カルディオバージョン(除細動)で、心筋をリセットさせます。 最初から除細動を、と思うかもしれませんが、起きているときにいきなり除細動が起こると、植え込み術を行われた患者さんにとっては心的外傷(トラウマ)になることがあります(実際に、私がICDを植え込み、今後の生活について説明をしていたときに、「うっ」となって、失神したあと、除細動で、生き返った人もいます。 できるだけそういったことを少なくするためには、アミオダロンという不整脈の薬を組み合わせることが重要です。 また、最近の ICDにはいろんな機能があり、できるだけ誤作動(これはどうしてもありえます)を少なくするモードにしたりします。
組み合わせもあります。 CRTとICDが一緒になった、CRT-Dなどもあります。 これも最初からICDじゃなく、心不全にもきくCRT-Dにすればいいじゃないか、という考えもあると思いますが、それぞれに適応があり、むやみにつけても電池を消耗するだけで、いいことがない、という結果になります。

さて、ペースメーカー・チェックを当院では、6月と12月の半年ごとに行っています。 主にみているのは、電池の残り残量(ペースメーカーの力を借りていなくても、心臓が動いている、というセンシングを行うことで電池は消耗します。私は残り3- 6ヶ月で交換することを勧めています)のチェック、モードがスイッチされてないかどうかのチェック(DDDからVVIというモードになっていることがあります、本人の脈が心房細動になっている場合などです)、センシングとペーシングの閾値(心筋が弱ってきたりすると、閾値が高くなるため、電気信号を強めなければいけません)、リード線の抵抗(血栓や断線など)の変化がないかどうか、イベント(心房細動、心室頻拍、心室細動)があったかどうか、です。

最近はMRI(3テスラまでの磁気)対応のペースメーカがメインです。 以前は、ペースメーカーを入れる前に、頭部のMRIを撮ってから、ということもよくされていましたが、最近はしないですむ、ということです。

さて、ペースメーカーのモードで覚えておくといいのは、DDDとVVI、そしてVDDです。

DDDはリード線が心房と心室にないとできないモードです。 心房と心室の両者をセンシング・ペーシングするモードです。

VVIはリード線が1本が基本です。 心房は基本無視し、大事な心室のセンシングとペーシングを行います。

VDDもリード線は一本です。 心房はセンシングのみ行い、心室でセンシングとペーシングを行います。

大きな病院でペースメーカーを入れ、当院でチェックをする場合もあれば、半年ごと、当院と大きな病院でチェックを行う場合もあります。 チェックした内容はすべて記録に残り、また紹介状で大きな病院にすぐに内容を送るようにしています。