睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP治療は、現在生涯必要と考えられています。理由はシンプルで、気道が狭くなる体質そのものは治らないからです。
そのためCPAP治療は、やめればすぐに無呼吸や血圧上昇が再発するため、臨床的には「基本的に生涯必要」と位置づけられています(Schwarz EI, et al. Physiological consequences of CPAP therapy withdrawal. Am J Respir Crit Care Med. 2018)。

ただし、体重減少や生活習慣の改善によって無呼吸が軽くなった場合、終夜ポリソムノグラフィーなどで無呼吸低呼吸指数(AHI)が軽症レベルまで改善していると確認できれば、中止を慎重に検討できるケースもあります(Weaver TE, Grunstein RR. Adherence to continuous positive airway pressure therapy: the challenge to effective treatment. Proc Am Thorac Soc. 2008)。

それでも、たとえ改善して中止できたとしても再発の危険があることは忘れてはいけません(Campos-Rodriguez F, et al. Long-term adherence to CPAP therapy in patients with obstructive sleep apnea. Chest. 2005)。

冠攣縮性狭心症の薬物治療については、基本的に「一生涯の内服が必要」と現在は考えられています。これは冠動脈の攣縮という体質そのものが背景にあるためで、症状が落ち着いたからといってすぐに中止してしまうと、再発や突然死のリスクがあるからです。

ただし、ガイドライン上は「長期間症状がなく、危険因子が十分にコントロールされている場合には、本当に慎重に中止を検討できる」と記載されています(JCS Joint Working Group. Guidelines for diagnosis and treatment of patients with vasospastic angina. Circ J. 2010)。それでも特に発症から数年の間は危険度が高く、中止は非常にリスクを伴います。

したがって現段階では、やはり一生涯の服薬が重要だと考えられます。ただし今後さらに研究が進めば、薬の中止や減量に関する考え方も少しずつ変わってくる可能性があります。

8月29日に正式に発表された、2025年の高血圧ガイドライン(JSH2025)では、年齢や合併症にかかわらず「家庭では125未満、診察室では130未満」と一律の目標に統一されました(Verdecchia P, Angeli F, Reboldi G. The lowest well tolerated blood pressure: A personalized target for all? Eur J Intern Med. 2024)。

私は以前から家庭血圧を重視し、「110台であっても問題ない」「夜間には90台が出ても症状がなければ心配はいらない」と伝えてきましたが、これは今回の基準と矛盾するものではありません。むしろ「家庭での測定を大切にしよう」という方向性は同じです。ちなみに、夜間の血圧については「90台が出ても問題ない」と考えられています(Hermida RC, et al. Bedtime hypertension treatment improves cardiovascular risk reduction: the Hygia Chronotherapy Trial. Eur Heart J. 2019)。

ただ、この数字だけを見ると「もっともっと下げればいい」と思う方もいるかもしれません。そうではありません。体調、超高齢の方、腎機能が悪化してきている方では“下げ過ぎ注意”の姿勢は従来通り変わりません(SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015)。

ちなみに、アメリカの基準では収縮期が120を超えると“高血圧”に分類されます(これは降圧目標ではなく、正常血圧の上限としての定義です)。一方、日本では今も125以上が高血圧とされています。つまり、同じ124でもアメリカでは「すでに上昇域」、日本では「まだ正常」と扱いが分かれるのです。

結局のところ大切なのは、「家庭血圧を日々チェックし、125未満を目指しながらも、体調や腎臓の状態を見て柔軟に調整すること」です。

救急対応についてのお願い

当院は地域のかかりつけとして診療を行っておりますが、医師一人体制・検査機器の制約もあり、救急対応には限界があります。

そのため、症状によっては基幹病院の救急外来で診ていただく方が、より安全で適切な場合が少なくありません。

院長の私としては大変申し訳なく思いますが、患者さんの安全を最優先に考えた結果として、そのようにお願いすることがあります。

患者さん、ご家族の方、救急隊員の方、また救急病院で働く医療関係者の方々に対しては、当院を信頼しださっているのに救急対応が難しいことがあること、当院をあてにしてもらえること、またお忙しい中ご迷惑をかけることになりますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)について

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis:PBC)は、中年以降の女性に多い自己免疫性肝疾患です。小葉間胆管が慢性的に破壊され、胆汁の流れが障害されることにより、肝内胆汁うっ滞から徐々に肝硬変へと進行します。

遺伝と環境因子

PBCはメンデル遺伝(必ず親から子へ受け継がれる形式の遺伝)ではありません。ただし「なりやすい体質」が遺伝的に関与しており、家族内発症や一卵性双生児での一致率の高さが報告されています。発症には環境因子(喫煙、感染、化学物質など)が関わると考えられていますが、はっきりとした原因は不明です。

診断

診断の決め手は**抗ミトコンドリア抗体(AMA)**です。肝機能検査ではALPやγ-GTPの上昇が特徴的ですが、症状が乏しいため健診で偶然発見される例も少なくありません。AMAを測定しなければ診断に至らないこともあり、医師の気づきが重要です。そのため当院では肝障害の場合に必ず抗ミトコンドリア抗体の測定を念頭に起き、説明をさせてもらっています。

経過観察

病態の進行や合併症を早期に把握するため、半年ごとの採血と腹部エコー(もしくはCT検査)が推奨されます。採血では肝機能検査に加え、肝がんマーカーや肝硬変関連の検査を組み合わせるとより安心です。

治療

第一選択薬は**ウルソデオキシコール酸(UDCA, ウルソ)**です。多くの患者さんで有効とされ、日本では特に効果が高い印象があります。UDCAで十分な効果が得られない場合には、**オベチコール酸(OCA)**が追加選択肢となります(ただ私の経験上、ウルソが効かない方にまだ出会ったことがありません。日本人にはウルソが効果が強く出る印象です)。

UDCAの作用機序

胆汁酸は脂肪の消化吸収に不可欠な物質ですが、濃度が高すぎると肝細胞や胆管上皮を障害する「毒」として働きます。UDCAは毒性が弱い胆汁酸で、内服により体内の強い胆汁酸を置き換えて濃度を薄め、細胞障害を抑制します。