認知症の発症には遺伝や加齢以外に、生活習慣病が大きく管理していることや、
脳の予備能が関係します。
その 脳の予備能(cognitive reserve)について 話したいと思います。
Stern(2002, JINS)によると、本を読んだり、音楽をしたり、パズルをしたり、人と会話したりすることで脳が刺激され、脳細胞がダメージを受けても認知症になりにくい脳になり、また認知症になっていても進行抑制が期待できます。
運動も脳と直接関連し(Larson 2006, Ann Intern Med)、脳の予備能を高めることが知られています。
「人との会話はいや、人間は好かん」という人にも朗報ですが、会話だけでなく日記を書いたり、こうやってブログをつけたり、何かをアウトプットすることも同じ効果があります(Wilson 2002, JAMA)。また、ペットとの生活(Friedmann 1995, Am J Cardiol)や植物を育てる生活(Kaplan 1995, J Environ Psychol)も良いとされています。

 

PS)脳のダメージ と 言われてもイメージしにくいと思いますが、具体的には、脳の神経細胞やネットワークが壊れてしまうことを指します。

代表的には次の3つがあります。

  1. 神経細胞の脱落・変性
    アルツハイマー病ではアミロイドβやタウ蛋白がたまり、細胞がゆっくり死んでいきます。レビー小体型認知症ではαシヌクレインという異常なたんぱくが原因になります(Stern, 2012, Lancet Neurol)。

  2. 血管性の障害
    高血圧や糖尿病などで脳梗塞や小さな出血が起き、血流が途絶えた部分の神経細胞が壊れます。これが脳血管性認知症につながります。

  3. 炎症や酸化ストレス
    加齢や生活習慣による慢性の炎症や酸化ストレスが、神経細胞やシナプスの機能を低下させます。

なぜ予備能があるといいか、ですが「脳にダメージがあっても、別の神経回路を使って症状を遅らせる力がつくから」です(Stern, 2002, J Int Neuropsychol Soc)。脳を刺激し、ネットワークを豊かに保つことで、ダメージがあっても認知症の発症を遅らせたり、進行を緩やかにすることが期待されています。

睡眠時無呼吸症候群に対するCPAP治療は、現在生涯必要と考えられています。理由はシンプルで、気道が狭くなる体質そのものは治らないからです。
そのためCPAP治療は、やめればすぐに無呼吸や血圧上昇が再発するため、臨床的には「基本的に生涯必要」と位置づけられています(Schwarz EI, et al. Physiological consequences of CPAP therapy withdrawal. Am J Respir Crit Care Med. 2018)。

ただし、体重減少や生活習慣の改善によって無呼吸が軽くなった場合、終夜ポリソムノグラフィーなどで無呼吸低呼吸指数(AHI)が軽症レベルまで改善していると確認できれば、中止を慎重に検討できるケースもあります(Weaver TE, Grunstein RR. Adherence to continuous positive airway pressure therapy: the challenge to effective treatment. Proc Am Thorac Soc. 2008)。

それでも、たとえ改善して中止できたとしても再発の危険があることは忘れてはいけません(Campos-Rodriguez F, et al. Long-term adherence to CPAP therapy in patients with obstructive sleep apnea. Chest. 2005)。

冠攣縮性狭心症の薬物治療については、基本的に「一生涯の内服が必要」と現在は考えられています。これは冠動脈の攣縮という体質そのものが背景にあるためで、症状が落ち着いたからといってすぐに中止してしまうと、再発や突然死のリスクがあるからです。

ただし、ガイドライン上は「長期間症状がなく、危険因子が十分にコントロールされている場合には、本当に慎重に中止を検討できる」と記載されています(JCS Joint Working Group. Guidelines for diagnosis and treatment of patients with vasospastic angina. Circ J. 2010)。それでも特に発症から数年の間は危険度が高く、中止は非常にリスクを伴います。

したがって現段階では、やはり一生涯の服薬が重要だと考えられます。ただし今後さらに研究が進めば、薬の中止や減量に関する考え方も少しずつ変わってくる可能性があります。

8月29日に正式に発表された、2025年の高血圧ガイドライン(JSH2025)では、年齢や合併症にかかわらず「家庭では125未満、診察室では130未満」と一律の目標に統一されました(Verdecchia P, Angeli F, Reboldi G. The lowest well tolerated blood pressure: A personalized target for all? Eur J Intern Med. 2024)。

私は以前から家庭血圧を重視し、「110台であっても問題ない」「夜間には90台が出ても症状がなければ心配はいらない」と伝えてきましたが、これは今回の基準と矛盾するものではありません。むしろ「家庭での測定を大切にしよう」という方向性は同じです。ちなみに、夜間の血圧については「90台が出ても問題ない」と考えられています(Hermida RC, et al. Bedtime hypertension treatment improves cardiovascular risk reduction: the Hygia Chronotherapy Trial. Eur Heart J. 2019)。

ただ、この数字だけを見ると「もっともっと下げればいい」と思う方もいるかもしれません。そうではありません。体調、超高齢の方、腎機能が悪化してきている方では“下げ過ぎ注意”の姿勢は従来通り変わりません(SPRINT Research Group. A Randomized Trial of Intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med. 2015)。

ちなみに、アメリカの基準では収縮期が120を超えると“高血圧”に分類されます(これは降圧目標ではなく、正常血圧の上限としての定義です)。一方、日本では今も125以上が高血圧とされています。つまり、同じ124でもアメリカでは「すでに上昇域」、日本では「まだ正常」と扱いが分かれるのです。

結局のところ大切なのは、「家庭血圧を日々チェックし、125未満を目指しながらも、体調や腎臓の状態を見て柔軟に調整すること」です。