その他の疾患

推理小説の犯人当てと、病気の診断の違い(急性過敏性肺臓炎の流行時期)

私は推理小説が好きで、自分で書くこともあります(実際に、著書「恋する心エコー」はミステリー形式で書いています)

推理小説では、私は「アリバイ」だけが犯人当てに役立つと思っているので、犯人を疑う順番は、①作者(文章の力で殺害) ②名前のあるエキストラ ③実はカメラ目線の人がいる ④探偵や助手 そしてやっと⑤容疑者 の順番にアリバイを崩して行きます。

しかし医療において犯人当て(病気の診断)は、全く違います。 まずは、一発診断です。 心エコー検査や、心電図、採血検査で「急性心筋梗塞」「心不全」と診断出来ます。 次に、キーワード診断です。 黒色便があり、お腹の上が痛い、というキーワードで、「胃潰瘍」「胃癌」が考えられ、胃カメラ(私の造語だと、「咽頭・喉頭・声帯・食道・胃・十二指腸カメラ」です)で診断がつくでしょう。 最後に、全ての可能性を考え、聴診所見や身体所見も含めた、色んな検査(CT検査や採血検査、エコー検査)をしていき、鑑別に上がる疾患を一つずつ決していき、残ったものが「最終診断」となるわけです。 経過もみることがあります。

この時期、最も見逃され易く、鑑別に上がることが少ないと思われる疾患が「急性過敏性肺臓炎」です。 通常の肺炎だと、両側の肺に炎症像がでることは稀で、またレントゲンやCT検査で「濃い」色で映ります(もちろん両側にでることもあります) しかし、両方の肺に、「すりガラス」のように淡い影がみられるのが特徴な「非定型肺炎」「間質性肺炎(CTをみると鑑別がある程度できますが)」です。 しかし、春から秋、とくに夏場に多い「急性過敏性肺臓炎」を鑑別にあげないと、患者さんにとっては不利になってしまいます。
私は「放射線科」の目で、CTをみて、間質性肺炎か急性過敏性肺臓炎を、肺の末梢部位(すみっこ)をみて鑑別し、9:1で急性過敏性肺臓炎だが、間質性肺炎の可能性を残し、検査をするという立場をとります。 もちろん、非定型肺炎の可能性も残しながら治療・診断をしていく訳です。
ここで大事なことが2つあります。 1つは、プロ野球の野村元監督も言っているように「先入観は悪」ということ、です。 一発診断やキーワード診断ができてないのに、「ある程度、この疾患だろう」と1-2個の診断に決めつけるのは良くないと自戒の念をこめて診療にあたっています。 2つ目は、鑑別診断に上げる病名をサボる行為です。 徳島大学では、「診断学」の本(英文、慣れてなければ日本語のもの)を皆が買い、症状から、全ての疾患を書き出し、一つずつ除去していくことが内科の仕事でした。
こういうトレーニングをうけていないと、サボるわけでなくても、決めつけ、に走ってしまうことがあるので、私も気をつけて診療に当たっています。
私は、放射線科の目で、CTをみるだけでなく、本職の臨床医として、聴診所見も重要視します。 間質性肺炎なら、それ相応の音がするはずです。 しかしそれがない場合、可能性はかなり少なくなります。 聴診器を当てるだけでは全く意味がありません。 まさに、真ん中にある「脳」を音が素通りしてしまうだけの、形式だけの聴診です。 こういった行為を私はどうかと思いますし、聴診器を当てないなどという行為は、師匠である福田信夫先生(日本で聴診のトップランナー)からお叱りをうけるどころか、破門になってしまいます。 患者さんは、高いお金を出しているので、日本での標準以上の医療をうけたいと思っていると思います。 私が患者ならそう思いますから。 そのため、私はCTの読影技術を学び、開業した訳です。 CTの読影技術が専門でないとしても、内科医として、鑑別診断を書き出す行為は絶対にするべきです。 患者になったときに、「これはなんですか?」と医師に聞く事も大事です。 「まだ経過を見ないと分かりません」と言わせて頂く場合もあるのですが、私は質問に対しては何でもwelcomeです(答えられる範囲で答えさせていただきます)