有名な医師は、教授などにならなくても本を出す時代になってきました。 ただ、ここで自己満足な「自費出版」を他人に売りつける行為はどうかと思います(その形態の方が安く仕上がり「売りやすい」のなら話は別ですが) 私は35歳と37歳の時に、印税(全て寄付しています)が入る、「商業出版」をしています。 つまり手元には自分の本はありません。 しかも講演会などでは、本の内容は私のものではなくなっているので、形式上は出版社に筋をたてなければいけません(本の宣伝になるので、今の所、「OK」をもらっています)

さて、3冊目は本当は書き終わっているのですが、仕上がりがまだです。 その途中に、30人ほどで書く、9月出版予定の本が先にでそうです。 「心臓リハビリテーション」の本ですが、開業医では私ともう一人だけ。 ちなみに四国でも声をかけていただいたのは私だけです。 これは、普段から前向きな姿勢と、なにより論文、学会活動が評価されてのことだと思っています。

どのような構成にするか迷ったのですが、始めての人でもわかるように、また読み手を想像して書いてみました。 また9月中旬頃になると思いますが、クリニックに1冊置こうかと思いますので是非みてみてください。

これは私が初めて世に出した「FIT index」というものです。 おそらく今年の9月頃に「心臓リハビリテーション」の教科書が発売されるのですが、その中でも紹介しています(著者のなかの一人で、四国では私一人、開業医では私ともう一人の二人だけです)
当院の心エコー機器には自動的に算出されるようになっており、その日の体調にもよりますが、「有酸素運動」の脈拍がこの、FIT indexで算出されるようになっています。 私はこのFIT index以外に、左室の機能をみる「SEA socore」なども論文化しています。

他にも、血液を調べるときに、貧血がなく、骨髄の病気がない人に限り、MCVという項目が必ず採血では出てくることが多いのですが、これを、食事でどのくらいタンパク質を脂肪や炭水化物との比較で摂取したかの指標として、「PIM: protein intake maker」として論文とし、糖尿病薬の効果が出やすいかどうかという報告も論文化しています。

つまり、糖尿病の薬を選ぶときに、色んな論文を書いているので、その人にあった薬を選択できるのが、私の強みです。 これは糖尿病専門医でも気づいてないこともあります。 例えば心機能や筋力の関係と、糖尿病薬の効き目などです。

私は推理小説が好きで、自分で書くこともあります(実際に、著書「恋する心エコー」はミステリー形式で書いています)

推理小説では、私は「アリバイ」だけが犯人当てに役立つと思っているので、犯人を疑う順番は、①作者(文章の力で殺害) ②名前のあるエキストラ ③実はカメラ目線の人がいる ④探偵や助手 そしてやっと⑤容疑者 の順番にアリバイを崩して行きます。

しかし医療において犯人当て(病気の診断)は、全く違います。 まずは、一発診断です。 心エコー検査や、心電図、採血検査で「急性心筋梗塞」「心不全」と診断出来ます。 次に、キーワード診断です。 黒色便があり、お腹の上が痛い、というキーワードで、「胃潰瘍」「胃癌」が考えられ、胃カメラ(私の造語だと、「咽頭・喉頭・声帯・食道・胃・十二指腸カメラ」です)で診断がつくでしょう。 最後に、全ての可能性を考え、聴診所見や身体所見も含めた、色んな検査(CT検査や採血検査、エコー検査)をしていき、鑑別に上がる疾患を一つずつ決していき、残ったものが「最終診断」となるわけです。 経過もみることがあります。

この時期、最も見逃され易く、鑑別に上がることが少ないと思われる疾患が「急性過敏性肺臓炎」です。 通常の肺炎だと、両側の肺に炎症像がでることは稀で、またレントゲンやCT検査で「濃い」色で映ります(もちろん両側にでることもあります) しかし、両方の肺に、「すりガラス」のように淡い影がみられるのが特徴な「非定型肺炎」「間質性肺炎(CTをみると鑑別がある程度できますが)」です。 しかし、春から秋、とくに夏場に多い「急性過敏性肺臓炎」を鑑別にあげないと、患者さんにとっては不利になってしまいます。
私は「放射線科」の目で、CTをみて、間質性肺炎か急性過敏性肺臓炎を、肺の末梢部位(すみっこ)をみて鑑別し、9:1で急性過敏性肺臓炎だが、間質性肺炎の可能性を残し、検査をするという立場をとります。 もちろん、非定型肺炎の可能性も残しながら治療・診断をしていく訳です。
ここで大事なことが2つあります。 1つは、プロ野球の野村元監督も言っているように「先入観は悪」ということ、です。 一発診断やキーワード診断ができてないのに、「ある程度、この疾患だろう」と1-2個の診断に決めつけるのは良くないと自戒の念をこめて診療にあたっています。 2つ目は、鑑別診断に上げる病名をサボる行為です。 徳島大学では、「診断学」の本(英文、慣れてなければ日本語のもの)を皆が買い、症状から、全ての疾患を書き出し、一つずつ除去していくことが内科の仕事でした。
こういうトレーニングをうけていないと、サボるわけでなくても、決めつけ、に走ってしまうことがあるので、私も気をつけて診療に当たっています。
私は、放射線科の目で、CTをみるだけでなく、本職の臨床医として、聴診所見も重要視します。 間質性肺炎なら、それ相応の音がするはずです。 しかしそれがない場合、可能性はかなり少なくなります。 聴診器を当てるだけでは全く意味がありません。 まさに、真ん中にある「脳」を音が素通りしてしまうだけの、形式だけの聴診です。 こういった行為を私はどうかと思いますし、聴診器を当てないなどという行為は、師匠である福田信夫先生(日本で聴診のトップランナー)からお叱りをうけるどころか、破門になってしまいます。 患者さんは、高いお金を出しているので、日本での標準以上の医療をうけたいと思っていると思います。 私が患者ならそう思いますから。 そのため、私はCTの読影技術を学び、開業した訳です。 CTの読影技術が専門でないとしても、内科医として、鑑別診断を書き出す行為は絶対にするべきです。 患者になったときに、「これはなんですか?」と医師に聞く事も大事です。 「まだ経過を見ないと分かりません」と言わせて頂く場合もあるのですが、私は質問に対しては何でもwelcomeです(答えられる範囲で答えさせていただきます)

「エコーでは圧は分からない。圧較差しか分からないから、一つの部屋の圧を推定すれば、そこから、計算でその部屋の圧そのものが分かる」

徳島大学で心エコーを習得中に、おでん屋で、先輩医師から聞いた一言で、もやもやしていたものが吹き飛んだのを覚えています。

先日も香川の坂出市で「糖尿病」の講演会に呼んでいただいたのですが、私に糖尿病治療や甲状腺治療などを教えてくださった先輩医師とそのあと飲み会で、最新の糖尿病治療の知見を聞いたり、当たり前だけども、専門中の専門(この先生は四国で初めて「マゴット・セラピー(蛆虫で下肢切断を防ぐ治療)」をした先生です)の医師の一言一言の重いこと重いこと。 この飲み会2時間ちょっとで、私の糖尿病治療の見識はだいぶあがりました。

また、週に2回私は、製薬会社様の営業の方の話をきくことを予約制として、来てもらうようにしています。 そこでも、営業の人の一言や、学術担当といって、製薬会社での研究担当の方などの話を聞くこと自体が非常に勉強になっています。 しかし、予約しているにもよらず、忘れていた、などで、連絡もせず、こない方もいます。 それなら、違う方に来てもらって話をしてもらうようにしないと、私にとって、ひいては患者さんに対する治療が遅れる可能性があり、困っています。 基本的には、営業活動をしない、イコール、私にはその薬の強みが、他の薬と比較しての最新の知見(すべてのことを自分自身で調べるには限界があります)が分からないので、営業活動をさぼる会社の薬は、自分自身で調べてよければ使用するけども、差がないのであれば、絶対に処方しません。
製薬会社の役割を軽くみている営業の方の話は、「達人」の一言ではない、と思っています。

前回も書きましたが、私は尿に糖を出す糖尿病の治療薬は5種類だけだと思っています。 スーグラは「毒」だと思っているので、カテゴリーに入れてないのです。 当初、発売が早かったのが「スーグラ」でしたが、私は、2番目にでた「フォシーガ」を選び、糖尿病学会は1年以上「処方するな」というニュアンスを学会員にだしていましたが、私自身は「理にかなった薬剤だ」と思っており、多くの循環器専門医の方が先に処方をしていたのが現状です。

しかし、世間で「この薬には脱水性の皮膚炎が起こる」という、どこかの石頭の医師が言いだして、妙なことになりました。 それは心不全の患者さんで、利尿剤が効きすぎて、逆に脱水になったりしても、また脱水で来院されるかたで、皮膚炎は起こらないことをみんな知っているからです。 私は納得がいきませんでしたので、論文を探して、たどり着いたのが、「スーグラはできれば使わない方がいいです」というニュアンスが込められた論文です。 動物実験の論文ではあるのですが、脱水性の皮膚炎などではないことがわかりました。
「おかしい」と思ったことを、そのままにするのは、医師の資質にかけます。 早く、スーグラの処方がゼロ、になる県になってほしいと思いますが、こういった記事や他の記事でも必ず同じようなことが書かれると思いますが、それを見てから処方をやめる医師は、きっとこの先も危ない薬を、製薬会社からの勧めだけで処方することになるのだと思います。
昔の本で、医師は10年たったらみんなレベルは同じだ、と書かれた本をみて医学生のころ安心していましたが、医師ほど生涯研鑽が必要な職業だと医師1年目に思いました。

開業医の腕は、英文で論文を書かないと、落ちる。 これは私の信条であり、おそらく間違ってないと思います。

第三者の評価をうけないと、自分なりの昔ながらの治療となってしまうこと。

また英文で書くには、最新の英語論文を読まないと書けません。 日本人でも、最新の研究結果は英文で論文を99%書くので、和文の論文では情報が遅くなるからです。

医学博士になるには論文が必要です。 しかし、自分で書かずに、他人が書いた論文で医学博士になり、自分の(?実際は違う)論文はその1枚だけ、という医者がいることは事実です。

開業しても、私は論文を書き続けることを厭わない理由の一つです。 最近は英語論文を訳した日本語のガイダンスを語る医師が増えた気がします。 微妙なニュアンスが実際に英文で読まないとわからないことが多いのです。 この人わかってないなー、と研究会では思うことがあります。 もちろん、凄いな、と思うことの方が多いのですが。